UNOPENED/風城国子智

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 整理していた書棚から、ぽとりと、四角いものが落ちる。

 床に落ちたそれは、すっかり色褪せてしまった、小さな封筒。差出人の名も、宛先さえも、判別できなくなってしまっている。だが、手作りらしく少し歪んだその封筒の形だけで、昔の記憶が引き出される。……あの人がくれた、手紙。

 躊躇いながらもそっと、床に落ちたその封筒を拾い上げる。この封筒の封を破り、中の手紙を読んでいたならば、今頃は。そう考え、首を横に振る。いや、あの人には、私のいないところで幸せになって欲しかった。その思いは、今も、変わらない。だから。

 手の中の封筒を、そっと横に投げる。

 薄汚れてしまった封筒は、書棚側のくず入れにすとんと、収まった。

 

 

Auther : 風城国子智
Circle : WindingWind
Twitter : @sxisato
紹介文 : 子智さんには珍しく、(多分)現代もの、です。

 

 

 


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コメント

  1. 森村直也 より:

    開けられなかった手紙、受け取られなかった気持ちは何処へ行くのだろうと、ぼんやり思いました。
    知りたくない、知らない、というのも一つの選択で、それ故に。

    あの人も私も幸せに向かうために。
    気持ちも未練も、中身と一緒に綺麗に燃えて消えますようにと、願わずにはいられません。

  2. いぐあな より:

    長くしまってあった手紙への、後悔と中に書かれた文への少しの期待と、それを読んでしまうことへの恐れと……。
    様々な感情の詰まった手紙を手放し、前に進めたら良いと思いました。

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