私が知ってる大人は、酒乱の父親と自分の意見を持たない母親、心配はしてみせるけど面倒事は勘弁という顔をする担任教師と、声の大きさに無自覚な噂好きの近所のおばさん。それくらい。 だから背筋のぴんと伸びた、スーツを着こなすおじいちゃんを見た時には驚いた。それが私と血が繋がっているという。ちょっと信じられない。 「好きなものを頼むといい」 ジャズの流れる静かな喫茶店で、私はおじいちゃんと向かい合ってケーキを食べた。甘ったるくないモンブラン。サクッとする何かが真ん中に入ってる。 「私達と一緒に暮らすかい?」 それがメレンゲだと気づいた時、おじいちゃんの頼んだコーヒーが減ってないことにも、初めて気がついた。 |
Auther : 東見日和 Circle : complex garden. Twitter : @Harumi_Niwa |
淡々とした1人称の文章に、読みやすく、また作中の世界観に引き込まれました。
担任教師の「心配はしてみせるけど面倒事は勘弁という顔をする」の様子がなんだかリアルだな……と思いました。「私」の知っている大人が少なくて、今まで本当に狭い世界に閉じ込められている状態だったんだな、と思いました。柵がある環境、というか……。そして、3行目のおじいちゃん登場に、作中の「私」の世界に光が差した感覚が読んでいてしました。
「だから背筋のぴんと伸びた、スーツを着こなすおじいちゃん」「ジャズの流れる静かな喫茶店」に、おじいちゃんの雰囲気や人柄を感じました。
「おじいちゃんの頼んだコーヒーが減ってないことにも」に、おじいちゃんは「私」がどういう環境にいるのか知っていて(または最近~少し前に知って)、モンブランを食べる「私」を見守り、あえて声をかけず、モンブランの味が実感できるまで、「私」のテンポに合わせて見守って、「私達と一緒に暮らすかい?」実際に助けてくれたんだな、と思いました。
読んでいただき、また感想までありがとうございます……!
深く読み解いてくださったこと、登場人物の心情に寄り添ってくださったことをとても嬉しく思います。
周りを見る目と自分の立場が、わかっているようで実のところあまりよくわかっていない、大人に振り回される子を意識していたので、光射すように見ていただいてホッとしました。
本当に素敵な感想をありがとうございました!
多分、彼女が見た初めての本当の『大人』だったのでしょう。
そして、甘くないモンブランに彼女もまた大人の階段を登り始めたのと、コーヒーにおじいさんの緊張を感じました。
幸せになれると良いのですが