伊勢崎銘仙を着て、その店の前に麻衣はいた。年老いた店主は「あれ、荻野のゆうさんかと思ったよ」と言った。 「それ、祖母の名前です」 「ゆうさんの孫かー、よく似てんなー」 店主は焼まんじゅうを焼きながら笑った。 「ゆうさんもよくじいさんに連れられてここに来てたなー、そんときゃ俺もちびだったけどよ」 「この店、長いんですか」 「俺で五代目」 「祖母は店は田んぼの中にあったと」 「そりゃ、随分昔の話だね」 「そういえば」 古びた店は住宅地の真ん中にあった。 「その銘仙、ゆうさんの形見かい」 「そうなりますね、おじさん、焼きまんじゅう、くださいな」 「あいよ」 香ばしい香り。代々受け継いだという味噌ダレ。素朴な上州のおやつ。 |
Auther : つんた Circle : みずひきはえいとのっと Twitter : @tsuntan2 紹介文 : 銘仙は伊勢崎市の特産品でした。今では織元は一件しかないそうです。焼きまんじゅうは群馬のおやつで、餡なしのすまんじゅうを炭火で焼き、味噌タレをかけたもので、群馬の女性たちはなるべく料理かんたんにして糸繰りや織物に従事したものでした。もう今はない機屋は近所にもあったそうで、そこの亡くなったおばあさんを思い出して書いたものです。別のパターンもありますので、そちらもよろしく。 |
土地の産業を担った女性達ならではのお菓子。
歴史とはまた少し違う風土に根差したご当地お菓子は、本当に良いものですね。
銘仙は……ですが、焼きまんじゅうは長く残って欲しいです。