「これ、あんたにやるよ」 祖母が残した銘仙。 「あたしの母が織ってくれた」 そういつも話していた祖母。曽祖父は機屋をしていた。曾祖母は銘仙を織っていた。 もうその機屋はない。祖母が嫁いで間もなく廃業した。その機屋の最後の銘仙。 それを着て、その街を歩く。住宅街に古い焼きまんじゅう屋があった。祖母が懐かしがった上州のおやつ。 彼女はその店をそっと見ていた。店主は赤い古いうちわを忙しなく動かして炭火でまんじゅうを焼いている。 年老いた店主は祖母よりもいくらか若いのかもしれない。 その店主が顔をあげた。ぎょっとした顔をした。 「ゆうさんかと思ったよ、ゆうさんの銘仙だね、それは」 店主はそう言って笑っていた。 |
Auther : つんた Circle : みずひきはえいとのっと Twitter : @ tsuntan2 紹介文 : 銘仙は伊勢崎市の特産品でした。今では織元は一件しかないそうです。焼きまんじゅうは群馬のおやつで、餡なしのすまんじゅうを炭火で焼き、味噌タレをかけたもので、群馬の女性たちはなるべく料理かんたんにして糸繰りや織物に従事したものでした。もう今はない機屋は近所にもあったそうで、そこの亡くなったおばあさんを思い出して書いたものです。別のパターンもありますので、そちらもよろしく。 |
先程と同じものを少し違う視点から見たお話。
祖母も彼女に銘仙を着て、自分が歩いたように町を歩いて欲しかったのかもしれません。