音も無く、ただただ白く降り積もる雪を、サシャが羽織るマントの隙間から見つめる。
雷鳴、窓硝子を強く叩く氷の音。トールが知っている雪は、音を立てて降るもの。しかしこの場所では。サシャが着ているエプロンの胸元に位置するポケットの中で、トールは無意識に首を横に振っていた。
「吹雪の日は、風の音がするよ」
何の因果か『本』に転生してしまったトールの背に浮かんだ思考を読み取ったサシャが、木々の間で凍る地面を確認しながら呟く。
転生前に暮らしていた町では、無音の雪は、生活が麻痺する大雪を意味した。しかしこの場所では、雪は軽く、どかっと積もることはなさそうだ。何が、違うのだろう? 視界の白に、トールは小さく唸った。
Auther : 風城国子智 Circle : WindingWind Twitter : @sxisato 紹介文 : 異世界転生ファンタジー「『魔導書』に転生した俺と、あいつとの日々。(http://windingwind.hacca.jp/story/long/madousho.html)」より。 転生したトールが、異世界の雪を不思議に思う物語です。 |
トールくんは現代の湿った雪の地方の出身のようですね。
気候の違いか、そもそもこの異世界の雪がそういうものなのか、同じ天候の違和感が面白いです。
いぐあな様、感想ありがとうございます。
トール君は雪が降らない瀬戸内から北陸に引っ越してきた設定なので、おそらく「雪」といったら湿った雪しか知らないのではないかな、と思っています。